2010年ニューイヤー、山下洋輔、スタニスラフ・ブーニンの頂上決戦で幕開け ― 2010年01月17日 01時20分35秒
ASAHIネット(http://www.asahi-net.or.jp )のjouwa/salonからホットコーナー(http://www.asahi-net.or.jp/~ki4s-nkmr/ )に転載したものから。
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新春恒例「東京オペラシティ・ニューイヤー・ジャズ・コンサート」。
2010年は、「いくらなんでも予想外」のキャッチフレーズ通り、驚きのスタニスラフ・ブーニンとの共演・競演・狂演・きょうえんきょうえんきょうえんきょう、月の家圓鏡。\(^O^)/
会場に入って、毎年、このコンサートで新年の挨拶を交わしている平石さんや尾川さんを探そうとしたら、受付を通ってすぐ、「正三郎さん」という声が。
振り返ると、なんと、笑犬楼(筒井康隆)様ではないか。
こちらから、平石さんや尾川さんと一緒にご挨拶に行こうかと思っていたのに、恐縮至極。近況など立ち話を少し。一緒に行っていた、クラシックのピアノの菊池先生を紹介する。
あとで菊池先生から、「筒井さんは、中村さんのことを正三郎さんとお呼びになるのね」と指摘されて気づいた。フツーは、「showさん」。こちらとしては「正三郎」と呼び捨てにされても「正助」でもいいのに、なるほど、見知らぬ女性と一緒だったので、改まった呼び方をなさったのかと。筒井さん、こういう細かい気遣いがちゃんとあるのよね。さすが大人、超一流の人は違うよね。当たり前か。
その後、めでたく平石さんや尾川さんとも挨拶が交わせて、新年の儀式終了となり、演奏に集中できる状態になる。
曲目を書こうと思って書き始めたら、あ、こんなところにある。
http://www.operacity.jp/concert/2009/100109/
東京オペラシティ ニューイヤー・ジャズ・コンサート2010
山下洋輔プロデュース IMPROVISING ブーニン!
でも、リンク切れになったらいやなので、引用しておこう。
--- ここから ---
[曲目]
第一部:ブーニン ソロ
・ドビュッシー:喜びの島
・プーランク:3つの小品より「トッカータ」
・J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ~カンタータ 第147番より
第二部:山下 ソロ
・J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番より「プレリュード」
・山下洋輔:仙波山
第三部:ブーニン&山下 デュオ
・J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲第4番BWV1055より第1楽章
・山下洋輔:エコー・オブ・グレイ
・山下洋輔:キアズマ
・ドビュッシー:ピアノのために
[アンコール]
・ドビュッシー:夢想(ブーニン&山下 デュオ)
・スウィングしなけりゃ意味がない(山下 ソロ)
--- ここまで ---
バッハ、ドビュッシー、山下洋輔。3人の作曲家の曲のみ。なんと潔い。それでいながら、バリーエションとカラーリングに富んだ選曲。
すでに、tti/salonで、ヤノピ(山下洋輔)様ご本人からの説明があったように、1曲目「喜びの島」は本来、山下洋輔作曲「In To Green」だったもの。
ブーニンさん親子のお気に入りの曲で、それをかの挾間美帆さんが採譜して、ブーニンさんに渡したそうですが、山下さんの有名な曲を不完全に弾くわけにはいかないとキャンセルになったとのこと。
これから推測するに、山下洋輔作曲の曲は、全部、挾間美帆さんが採譜して、ブーニンさんに渡したのではないかと思うけれど、よくまあ、これらの曲を採譜するわな。それだけでも恐ろしい。超一流の人たちって、すごいよね。
アンコールのドビュッシーの「夢」は、「夢想」が正式な名前なのか。ぼくは、「夢」で覚えています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/夢想_(ドビュッシー)
をみると、「夢」とも訳されるとありますね。
アンコール2曲目「スウィングしなけりゃ意味がない」が、曲名をど忘れして出てこなかった。これまたtti/salonで、ヤノピ様ご本人から、「フリーイントロ付き・エリントンのIt's Don't Mean a thing」との解説あり。恐縮至極。これが出てこないんだもんね。もう、そろそろお迎えか。\(^O^)/
演奏は、第1部、第2部は、ソロ。頂上決戦は、デュオの第3部からです。
注目は、2曲目「エコー・オブ・グレイ」で、ここで、ブーニンさん、インプロヴィゼーション(アドリブ)をやりました。
2曲目が終わって、山下さんが、「今夜はすごい夜で、たったいま、ブーニンさんが、フリージャズピアニストとしてデビューしました、これが聴けたのは、今日、ここにお集まりくださったみなさまだけです」などと紹介して、会場が拍手。
どうだったかを訊かれたブーニンさん。「すみませんでした」。\(^O^)/
爆笑と拍手の渦。
曲間のトークは、ブーニンさんは、ドイツ語で通訳付きでしたが、夫人が日本人なので、実は、日本語はぺらぺらなのではないか。少なくとも、聞くのは大丈夫なんじゃないかと思っています。
ブーニンさんにとっては、ジャズとは、山下さんのジャズだそうです。若い頃は、オスカー・ピーターソンを聴いて、弾いてみたりもしたそうです。彼は、オスカー・ピーターソンのジャズをクラシカルなジャズと言ってましたね。そして、山下洋輔のジャズを聴いて、ジャズとは、こんなすごい音楽だったのかと、驚き、それから山下ジャズに病みつきになり、ブーニンさんにとって、ジャズ=山下洋輔ジャズになったそうです。
その証拠に、プログラムの文章にもあったように、山下さんをヨーロッパでの自分のコンサートに呼んだり、逆に、会場での山下さんの説明にあったように、よほどのジャズ通でなければ、まず行かないような、ヨーロッパのジャズクラブで山下さんが演奏していたら、ひょっこりブーニンサンがやってきた演奏に聴き入るといったことがあったそうです。
「すみませんでした」は、自分に厳しいブーニンさんが、つたない演奏で尊敬する山下さんに申し訳ないという意味でしょうが、ならばと、3曲目が「キアズマ」。
演奏前の山下さんの紹介にあったように、ほぼ全編即興演奏。
これがすごかった。
肉食獣の親が子供に狩りの仕方を教えるでしょ。最初はあんな感じ。
映画でよくあるでしょ。ヒーローに新たな強敵出現。このままでは勝てない。新必殺技を身に付けなくては。
そこで、インドや中国か知らんが、どこか山奥に行く。そしたら、そこに拳法の超人、それも大概は老人がいる。こんな奴が強いわけねえだろうと、ヒーローが軽く挨拶代わりにパンチと蹴りを繰り出したら、老人はひょいとヒーローの頭に小鳥のように止まる。ヒーローは、「こいつ」と両手で捕まえようとするが、捕まらない。すったもんだの挙げ句、老人の強さを認め、弟子入りして、厳しい修行に励む。
映画ではその数ヵ月間か数年間の様子が、5分か10分くらいのラッシュで一気に流れていく。これを、映画用語でなんというのか忘れたが、あれを思い出した。
もっとはっきり書けば、映画「スターウォーズ」で、主人公のルーク・スカイウォーカーが、ジェダイの騎士としての才能を開花させるために、ジェダイの超人ヨーダに厳しく稽古を付けてもらいますよね、あれです、あれ。
ヨーダ山下に、ルーク・ブーニンがフリージャズの稽古を付けてもらう。これが最初の感じ。
まず、ヨーダ山下が、技を繰り出し、それをルーク・ブーニンが受けて、真似た技を出す。
対して、ヨーダ山下が「では、これではどうだ。む、そう来たか。なるほど。では、これはどうだ」という具合に始まったが、ルーク・ブーニンは、パワー、テクニック、音楽的読解力はすさまじいものがあって、両者のやり取りは、段々、すごいことになっていく。
ついには、ヨーダ山下の一瞬の隙を突いて、ルーク・ブーニンの強烈な右回し蹴りが炸裂。
ヨーダ山下は、ワイヤーアクションさながらに50メートル吹っ飛ばされるが、そこはそれ、愛猫家のヨーダ山下。猫の受け身で、深山幽谷に聳える大伽藍の大屋根に難なく着地。振り返った顔がアップになると、なんと、満面の笑み。
「ほぉ、やりおるわい。久々じゃの。本気を出すとするか」
「とりゃぁぁぁぁ」。裂帛の気合いと共に、ヨーダ山下、一気に上空1万メートルまで鍵盤の階段を駆け上がり、そこから肘打ち拳骨打ち垂直急降下爆撃。
ルーク・ブーニンも、ヨーダ山下のルーツは鹿児島にありと見抜き、桜島をわしづかみにして、ちぎっては投げ、ちぎっては投げで対空放火の弾幕を張る。
かと思えば二人とも幼児になり、アルプスの少女ハイジの世界に入って、仲良くお手々つないでお花畑をお散歩。
もう何を書いているのかわからないが、これはおれの文章ならいつものこと。
その後は、ルーク・ブーニンの拳骨打ち低音タコ殴りや肘打ち(*1)まで出て、狂喜乱舞が咲き乱れ、フィナーレに突入という壮絶バトル。
*1
おれは拳骨打ちは見えたが、肘打ちはわからなかった。それほどの超高速技だったということだ。目撃した文豪ミニさんの、tti/salonでの報告によれば、「エレガントな肘打ち」だったとのこと。
終わったあとが、また、よかった。
山下さんが、「(これだけ弾いちゃう)ブーニンさんが、ジャズ界、フリージャズ界に殴り込んできたら、もちろん、歓迎しますが、いやはや大変なことになります」などといって、会場を沸かせる。
自信のほどを訊かれたブーニンさん。「すみませんでした」。\(^O^)/
あの東京オペラシティ武満徹メモリアルホールが、大爆笑、大拍手。
それから、しばらくは、拍手が鳴り止まず。
それに応えて、山下さん、ブーニンさん。ステージに出てきて、お礼と挨拶をし、引っ込んでも拍手は鳴り止まず。また出てきて引っ込んでを、さて何回繰り返したことか。数えられないくらい何度もやって、「では」とアンコール。
以下、1曲目については、(表に出していなかった)tti/salon #22160から引
用。
--- ここから ---
アンコールの1曲目は、ブーニンさんとのデュオ。
曲は、ドビュッシーの「夢」でした。
なるほど、このコンサートのアンコールにふさわしいと思いました。
この曲が終わったとき、ヤノピさま、しばらく放心状態のようでした。
ブーニンさんは、もう立ち上がって、挨拶をしているのに、ヤノピさま、5秒から10秒くらいでしょうか。どこか、虚空をみつめるような感じで、ピアノの前に座ったままでした。
夢の余韻を楽しんでらっしゃるようでもあり、夢なら醒めないでくれと嘆願しているようでもあり、あの時間は、どういう心境でいらっしゃるのかと、遠くから拝見しつつ、ぼんやり考えておりました。
--- ここまで ---
ヤノピ様からは、「中村(show)さま、「夢」のあと、確かに立ち上がれませんでした。半年間の準備時間が夢のように終わった瞬間でした」とのコメント。恐縮至極であります。
アンコール2曲目は、山下さんが一緒に弾こうとブーニンさんを誘ったけれど、彼は遠慮して、でも、ステージの端で立ったまま、食い入るように山下さんを見つめ、演奏に聴き入っていました。
ソロの最後は、全盛期の朝青龍が相手を土俵に叩きつけたように、山下さん、コンサートグランドをステージに叩きつけてフィニッシュ!
大拍手、大歓声。
また、しばらく、お二人は、ステージと楽屋を行ったり来たり。大変、歩行訓練になったと思います。\(^O^)/
ピアノの菊池先生も、「こんなにピアノで会話が自由にできるのは、ほんとに素晴らしい。至福の時間でした」と感激していらっしゃいました。
参考:
「In To Green」が入っているのは、「Canvas in Quiet」。邦題「耳をすますキャンバス」です。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0000568QN/showshotcorne-22/
耳をすますキャンバス
山下洋輔, Yosuke Yamashita
ぼくがもっているCDの表記では、「In To Green」ではなく「Into Green」になってますね。
「耳をすますキャンバス」は、4分ほどの作品がたくさんならんでいる作品集ですが、今回、ライナーノート(もちろん洋輔さんの文章)を読み直して、びっくり。
画家松井守男さんの絵にインスパイアされて作られた作品集ですが、フランス政府は、松井さんの絵の実力を高く評価して、かつてピカソがそうであったように、税金は絵で納めてもいいことになってるんですね。ほんとですか、これ。
日本は、マンガとアニメの大国というけれど、漫画家が税金をマンガやアニメの原画で納めたり、小説家が生原稿で収めるのを認めているとは聞いたことがない。
やっぱり、芸術と文化の国、おフランスはすごいね。
それと、レコーディングの下見にコルシカにヤノピ様が行かれたとき、泊まったホテルでジャック・ルーシェとピアノの弾き比べをやってるんですね。
ジャック・ルーシェを、今回一緒に行ったピアノの菊池先生に、以前、お聴かせしたら、このバッハはすごいと狂喜乱舞していました。こうやって、クラシックの人を、ジャズ、ひいてはフリージャズに引き込もうと暗躍しています。\(^O^)/
あのときにお聴かせしたのは、
http://iiyu.asablo.jp/blog/2009/02/09/4109485
モーツァルトのCD170枚組\(^O^)/、デジタル・プレイ・バッハ
で紹介した
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005I2XD/showshotcorne-22/
デジタル・プレイ・バッハ
ですが、そこで紹介したベスト盤
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005R0R3/showshotcorne-22/
BEST OF PLAY BACH [Best of]
の日本語版が
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B001S5L0YQ/showshotcorne-22/
プレイ・バッハ~ジャック・ルーシェ・ベスト・セレクション
のようです。
「耳をすますキャンバス」は、1996年のピアノソロの作品ですが、トリオでやった「目をみはるキャンバス(Canvas in Vigor)」が1997年に出ていて、キャンバスシリーズになっています。「目をみはるキャンバス」は、2003年に再発売されていますね。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0000CD7XS/showshotcorne-22/
目をみはるキャンバス
山下洋輔, Yosuke Yamashita
プログラムにあった、ブーニン初来日のときに、文藝春秋のセッティングした対談前に、アルバムを送って、それを聴いたブーニンさんが、えらく喜んだというのは、
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0000CD7XV/showshotcorne-22/
山下洋輔「ラプソディ・イン・ブルー」
でしょう。
この感想は、
http://iiyu.asablo.jp/blog/2006/11/05/660143
山下洋輔「ラプソディ・イン・ブルー」
に書いています。
休憩時間に、菊池先生が、「ブーニンさんが弾いているピアノは何かしら。ピアノの横に何かスペルが書いてあるみたいよ。あなた、見てきてください」。
それで、のこのこステージ前まで行って、目を凝らして、おれの必殺超能力「カメラのような記憶(ただしピンボケ)」を使って記憶。
戻ってきて、「ファズオリ? エフ、エー、ゼット、ええと」
「あ、ファツィオリね。イタリアの有名なピアノよ。初めて生で聴いたわ。いい響きね」
もちろん、ぼくは、全然、名前も知りませんでした。ぼくが知っているのは、ヤマハ、スタインウェイ、ベーゼンドルファーです。
日本にも会社がありますね。
http://www.fazioli.co.jp/
ファツィオリ(Fazioli)
Wikipediaによると、世界で最も高額なピアノなんですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ファツィオリ
日本のところで、ブーニンさんのことも書いてありますね。
日本では、ラザール・ベルマンが最初なのか。高校のときに、自分で買ったクラシックのアルバムは1枚だけ。それが、なぜかラザール・ベルマン。なぜ買ったんだろう。振り返っても理由がわからず。あだ名は、「鍵盤の獅子王」ですよね。
おいおい、それは、ヴィルヘルム・バックハウス。
あちゃー、必殺超能力「うっかり八兵衛いつもの勘違い」。\(^O^)/
http://ja.wikipedia.org/wiki/ラザール・ベルマン
http://ja.wikipedia.org/wiki/ヴィルヘルム・バックハウス
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新春恒例「東京オペラシティ・ニューイヤー・ジャズ・コンサート」。
2010年は、「いくらなんでも予想外」のキャッチフレーズ通り、驚きのスタニスラフ・ブーニンとの共演・競演・狂演・きょうえんきょうえんきょうえんきょう、月の家圓鏡。\(^O^)/
会場に入って、毎年、このコンサートで新年の挨拶を交わしている平石さんや尾川さんを探そうとしたら、受付を通ってすぐ、「正三郎さん」という声が。
振り返ると、なんと、笑犬楼(筒井康隆)様ではないか。
こちらから、平石さんや尾川さんと一緒にご挨拶に行こうかと思っていたのに、恐縮至極。近況など立ち話を少し。一緒に行っていた、クラシックのピアノの菊池先生を紹介する。
あとで菊池先生から、「筒井さんは、中村さんのことを正三郎さんとお呼びになるのね」と指摘されて気づいた。フツーは、「showさん」。こちらとしては「正三郎」と呼び捨てにされても「正助」でもいいのに、なるほど、見知らぬ女性と一緒だったので、改まった呼び方をなさったのかと。筒井さん、こういう細かい気遣いがちゃんとあるのよね。さすが大人、超一流の人は違うよね。当たり前か。
その後、めでたく平石さんや尾川さんとも挨拶が交わせて、新年の儀式終了となり、演奏に集中できる状態になる。
曲目を書こうと思って書き始めたら、あ、こんなところにある。
http://www.operacity.jp/concert/2009/100109/
東京オペラシティ ニューイヤー・ジャズ・コンサート2010
山下洋輔プロデュース IMPROVISING ブーニン!
でも、リンク切れになったらいやなので、引用しておこう。
--- ここから ---
[曲目]
第一部:ブーニン ソロ
・ドビュッシー:喜びの島
・プーランク:3つの小品より「トッカータ」
・J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ~カンタータ 第147番より
第二部:山下 ソロ
・J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番より「プレリュード」
・山下洋輔:仙波山
第三部:ブーニン&山下 デュオ
・J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲第4番BWV1055より第1楽章
・山下洋輔:エコー・オブ・グレイ
・山下洋輔:キアズマ
・ドビュッシー:ピアノのために
[アンコール]
・ドビュッシー:夢想(ブーニン&山下 デュオ)
・スウィングしなけりゃ意味がない(山下 ソロ)
--- ここまで ---
バッハ、ドビュッシー、山下洋輔。3人の作曲家の曲のみ。なんと潔い。それでいながら、バリーエションとカラーリングに富んだ選曲。
すでに、tti/salonで、ヤノピ(山下洋輔)様ご本人からの説明があったように、1曲目「喜びの島」は本来、山下洋輔作曲「In To Green」だったもの。
ブーニンさん親子のお気に入りの曲で、それをかの挾間美帆さんが採譜して、ブーニンさんに渡したそうですが、山下さんの有名な曲を不完全に弾くわけにはいかないとキャンセルになったとのこと。
これから推測するに、山下洋輔作曲の曲は、全部、挾間美帆さんが採譜して、ブーニンさんに渡したのではないかと思うけれど、よくまあ、これらの曲を採譜するわな。それだけでも恐ろしい。超一流の人たちって、すごいよね。
アンコールのドビュッシーの「夢」は、「夢想」が正式な名前なのか。ぼくは、「夢」で覚えています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/夢想_(ドビュッシー)
をみると、「夢」とも訳されるとありますね。
アンコール2曲目「スウィングしなけりゃ意味がない」が、曲名をど忘れして出てこなかった。これまたtti/salonで、ヤノピ様ご本人から、「フリーイントロ付き・エリントンのIt's Don't Mean a thing」との解説あり。恐縮至極。これが出てこないんだもんね。もう、そろそろお迎えか。\(^O^)/
演奏は、第1部、第2部は、ソロ。頂上決戦は、デュオの第3部からです。
注目は、2曲目「エコー・オブ・グレイ」で、ここで、ブーニンさん、インプロヴィゼーション(アドリブ)をやりました。
2曲目が終わって、山下さんが、「今夜はすごい夜で、たったいま、ブーニンさんが、フリージャズピアニストとしてデビューしました、これが聴けたのは、今日、ここにお集まりくださったみなさまだけです」などと紹介して、会場が拍手。
どうだったかを訊かれたブーニンさん。「すみませんでした」。\(^O^)/
爆笑と拍手の渦。
曲間のトークは、ブーニンさんは、ドイツ語で通訳付きでしたが、夫人が日本人なので、実は、日本語はぺらぺらなのではないか。少なくとも、聞くのは大丈夫なんじゃないかと思っています。
ブーニンさんにとっては、ジャズとは、山下さんのジャズだそうです。若い頃は、オスカー・ピーターソンを聴いて、弾いてみたりもしたそうです。彼は、オスカー・ピーターソンのジャズをクラシカルなジャズと言ってましたね。そして、山下洋輔のジャズを聴いて、ジャズとは、こんなすごい音楽だったのかと、驚き、それから山下ジャズに病みつきになり、ブーニンさんにとって、ジャズ=山下洋輔ジャズになったそうです。
その証拠に、プログラムの文章にもあったように、山下さんをヨーロッパでの自分のコンサートに呼んだり、逆に、会場での山下さんの説明にあったように、よほどのジャズ通でなければ、まず行かないような、ヨーロッパのジャズクラブで山下さんが演奏していたら、ひょっこりブーニンサンがやってきた演奏に聴き入るといったことがあったそうです。
「すみませんでした」は、自分に厳しいブーニンさんが、つたない演奏で尊敬する山下さんに申し訳ないという意味でしょうが、ならばと、3曲目が「キアズマ」。
演奏前の山下さんの紹介にあったように、ほぼ全編即興演奏。
これがすごかった。
肉食獣の親が子供に狩りの仕方を教えるでしょ。最初はあんな感じ。
映画でよくあるでしょ。ヒーローに新たな強敵出現。このままでは勝てない。新必殺技を身に付けなくては。
そこで、インドや中国か知らんが、どこか山奥に行く。そしたら、そこに拳法の超人、それも大概は老人がいる。こんな奴が強いわけねえだろうと、ヒーローが軽く挨拶代わりにパンチと蹴りを繰り出したら、老人はひょいとヒーローの頭に小鳥のように止まる。ヒーローは、「こいつ」と両手で捕まえようとするが、捕まらない。すったもんだの挙げ句、老人の強さを認め、弟子入りして、厳しい修行に励む。
映画ではその数ヵ月間か数年間の様子が、5分か10分くらいのラッシュで一気に流れていく。これを、映画用語でなんというのか忘れたが、あれを思い出した。
もっとはっきり書けば、映画「スターウォーズ」で、主人公のルーク・スカイウォーカーが、ジェダイの騎士としての才能を開花させるために、ジェダイの超人ヨーダに厳しく稽古を付けてもらいますよね、あれです、あれ。
ヨーダ山下に、ルーク・ブーニンがフリージャズの稽古を付けてもらう。これが最初の感じ。
まず、ヨーダ山下が、技を繰り出し、それをルーク・ブーニンが受けて、真似た技を出す。
対して、ヨーダ山下が「では、これではどうだ。む、そう来たか。なるほど。では、これはどうだ」という具合に始まったが、ルーク・ブーニンは、パワー、テクニック、音楽的読解力はすさまじいものがあって、両者のやり取りは、段々、すごいことになっていく。
ついには、ヨーダ山下の一瞬の隙を突いて、ルーク・ブーニンの強烈な右回し蹴りが炸裂。
ヨーダ山下は、ワイヤーアクションさながらに50メートル吹っ飛ばされるが、そこはそれ、愛猫家のヨーダ山下。猫の受け身で、深山幽谷に聳える大伽藍の大屋根に難なく着地。振り返った顔がアップになると、なんと、満面の笑み。
「ほぉ、やりおるわい。久々じゃの。本気を出すとするか」
「とりゃぁぁぁぁ」。裂帛の気合いと共に、ヨーダ山下、一気に上空1万メートルまで鍵盤の階段を駆け上がり、そこから肘打ち拳骨打ち垂直急降下爆撃。
ルーク・ブーニンも、ヨーダ山下のルーツは鹿児島にありと見抜き、桜島をわしづかみにして、ちぎっては投げ、ちぎっては投げで対空放火の弾幕を張る。
かと思えば二人とも幼児になり、アルプスの少女ハイジの世界に入って、仲良くお手々つないでお花畑をお散歩。
もう何を書いているのかわからないが、これはおれの文章ならいつものこと。
その後は、ルーク・ブーニンの拳骨打ち低音タコ殴りや肘打ち(*1)まで出て、狂喜乱舞が咲き乱れ、フィナーレに突入という壮絶バトル。
*1
おれは拳骨打ちは見えたが、肘打ちはわからなかった。それほどの超高速技だったということだ。目撃した文豪ミニさんの、tti/salonでの報告によれば、「エレガントな肘打ち」だったとのこと。
終わったあとが、また、よかった。
山下さんが、「(これだけ弾いちゃう)ブーニンさんが、ジャズ界、フリージャズ界に殴り込んできたら、もちろん、歓迎しますが、いやはや大変なことになります」などといって、会場を沸かせる。
自信のほどを訊かれたブーニンさん。「すみませんでした」。\(^O^)/
あの東京オペラシティ武満徹メモリアルホールが、大爆笑、大拍手。
それから、しばらくは、拍手が鳴り止まず。
それに応えて、山下さん、ブーニンさん。ステージに出てきて、お礼と挨拶をし、引っ込んでも拍手は鳴り止まず。また出てきて引っ込んでを、さて何回繰り返したことか。数えられないくらい何度もやって、「では」とアンコール。
以下、1曲目については、(表に出していなかった)tti/salon #22160から引
用。
--- ここから ---
アンコールの1曲目は、ブーニンさんとのデュオ。
曲は、ドビュッシーの「夢」でした。
なるほど、このコンサートのアンコールにふさわしいと思いました。
この曲が終わったとき、ヤノピさま、しばらく放心状態のようでした。
ブーニンさんは、もう立ち上がって、挨拶をしているのに、ヤノピさま、5秒から10秒くらいでしょうか。どこか、虚空をみつめるような感じで、ピアノの前に座ったままでした。
夢の余韻を楽しんでらっしゃるようでもあり、夢なら醒めないでくれと嘆願しているようでもあり、あの時間は、どういう心境でいらっしゃるのかと、遠くから拝見しつつ、ぼんやり考えておりました。
--- ここまで ---
ヤノピ様からは、「中村(show)さま、「夢」のあと、確かに立ち上がれませんでした。半年間の準備時間が夢のように終わった瞬間でした」とのコメント。恐縮至極であります。
アンコール2曲目は、山下さんが一緒に弾こうとブーニンさんを誘ったけれど、彼は遠慮して、でも、ステージの端で立ったまま、食い入るように山下さんを見つめ、演奏に聴き入っていました。
ソロの最後は、全盛期の朝青龍が相手を土俵に叩きつけたように、山下さん、コンサートグランドをステージに叩きつけてフィニッシュ!
大拍手、大歓声。
また、しばらく、お二人は、ステージと楽屋を行ったり来たり。大変、歩行訓練になったと思います。\(^O^)/
ピアノの菊池先生も、「こんなにピアノで会話が自由にできるのは、ほんとに素晴らしい。至福の時間でした」と感激していらっしゃいました。
参考:
「In To Green」が入っているのは、「Canvas in Quiet」。邦題「耳をすますキャンバス」です。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0000568QN/showshotcorne-22/
耳をすますキャンバス
山下洋輔, Yosuke Yamashita
ぼくがもっているCDの表記では、「In To Green」ではなく「Into Green」になってますね。
「耳をすますキャンバス」は、4分ほどの作品がたくさんならんでいる作品集ですが、今回、ライナーノート(もちろん洋輔さんの文章)を読み直して、びっくり。
画家松井守男さんの絵にインスパイアされて作られた作品集ですが、フランス政府は、松井さんの絵の実力を高く評価して、かつてピカソがそうであったように、税金は絵で納めてもいいことになってるんですね。ほんとですか、これ。
日本は、マンガとアニメの大国というけれど、漫画家が税金をマンガやアニメの原画で納めたり、小説家が生原稿で収めるのを認めているとは聞いたことがない。
やっぱり、芸術と文化の国、おフランスはすごいね。
それと、レコーディングの下見にコルシカにヤノピ様が行かれたとき、泊まったホテルでジャック・ルーシェとピアノの弾き比べをやってるんですね。
ジャック・ルーシェを、今回一緒に行ったピアノの菊池先生に、以前、お聴かせしたら、このバッハはすごいと狂喜乱舞していました。こうやって、クラシックの人を、ジャズ、ひいてはフリージャズに引き込もうと暗躍しています。\(^O^)/
あのときにお聴かせしたのは、
http://iiyu.asablo.jp/blog/2009/02/09/4109485
モーツァルトのCD170枚組\(^O^)/、デジタル・プレイ・バッハ
で紹介した
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005I2XD/showshotcorne-22/
デジタル・プレイ・バッハ
ですが、そこで紹介したベスト盤
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005R0R3/showshotcorne-22/
BEST OF PLAY BACH [Best of]
の日本語版が
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B001S5L0YQ/showshotcorne-22/
プレイ・バッハ~ジャック・ルーシェ・ベスト・セレクション
のようです。
「耳をすますキャンバス」は、1996年のピアノソロの作品ですが、トリオでやった「目をみはるキャンバス(Canvas in Vigor)」が1997年に出ていて、キャンバスシリーズになっています。「目をみはるキャンバス」は、2003年に再発売されていますね。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0000CD7XS/showshotcorne-22/
目をみはるキャンバス
山下洋輔, Yosuke Yamashita
プログラムにあった、ブーニン初来日のときに、文藝春秋のセッティングした対談前に、アルバムを送って、それを聴いたブーニンさんが、えらく喜んだというのは、
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0000CD7XV/showshotcorne-22/
山下洋輔「ラプソディ・イン・ブルー」
でしょう。
この感想は、
http://iiyu.asablo.jp/blog/2006/11/05/660143
山下洋輔「ラプソディ・イン・ブルー」
に書いています。
休憩時間に、菊池先生が、「ブーニンさんが弾いているピアノは何かしら。ピアノの横に何かスペルが書いてあるみたいよ。あなた、見てきてください」。
それで、のこのこステージ前まで行って、目を凝らして、おれの必殺超能力「カメラのような記憶(ただしピンボケ)」を使って記憶。
戻ってきて、「ファズオリ? エフ、エー、ゼット、ええと」
「あ、ファツィオリね。イタリアの有名なピアノよ。初めて生で聴いたわ。いい響きね」
もちろん、ぼくは、全然、名前も知りませんでした。ぼくが知っているのは、ヤマハ、スタインウェイ、ベーゼンドルファーです。
日本にも会社がありますね。
http://www.fazioli.co.jp/
ファツィオリ(Fazioli)
Wikipediaによると、世界で最も高額なピアノなんですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ファツィオリ
日本のところで、ブーニンさんのことも書いてありますね。
日本では、ラザール・ベルマンが最初なのか。高校のときに、自分で買ったクラシックのアルバムは1枚だけ。それが、なぜかラザール・ベルマン。なぜ買ったんだろう。振り返っても理由がわからず。あだ名は、「鍵盤の獅子王」ですよね。
おいおい、それは、ヴィルヘルム・バックハウス。
あちゃー、必殺超能力「うっかり八兵衛いつもの勘違い」。\(^O^)/
http://ja.wikipedia.org/wiki/ラザール・ベルマン
http://ja.wikipedia.org/wiki/ヴィルヘルム・バックハウス
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_ ホットコーナーの舞台裏 - 2010年11月05日 06時10分03秒
ASAHIネット(http://asahi-net.jp )のjouwa/salonからホットコーナー(http://www.asahi-net.or.jp/~ki4s-nkmr/ )に転載したものから。
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http://iiyu.asablo.jp/blog/2010/11/01/5460248
菊池早江子ピアノグループ演奏会
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http://iiyu.asablo.jp/blog/2010/11/01/5460248
菊池早江子ピアノグループ演奏会
_ ホットコーナーの舞台裏 - 2010年12月09日 05時17分12秒
ASAHIネット(http://asahi-net.jp )のjouwa/salonからホットコーナー(http://www.asahi-net.or.jp/~ki4s-nkmr/ )に転載したものから。
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お買い上げありがとうございます。
カラヤン&ベルリンフィルに
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お買い上げありがとうございます。
カラヤン&ベルリンフィルに
_ ホットコーナーの舞台裏 - 2011年02月01日 04時42分36秒
ASAHIネット(http://asahi-net.jp )のtti/salon(筒井康隆会議室)からホットコーナー(http://www.asahi-net.or.jp/~ki4s-nkmr/ )に転載したものから。
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もうコンサートから、3週間くらい経った遅れに遅
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もうコンサートから、3週間くらい経った遅れに遅
_ ホットコーナーの舞台裏 - 2011年12月07日 05時58分07秒
ASAHIネット(http://asahi-net.jp )のjouwa/salonからホットコーナー(http://www.asahi-net.or.jp/~ki4s-nkmr/ )に転載したものから。
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http://iiyu.asablo.jp/blog/2011/12/03/6231894
ピアノ発表会。開演時間が13時30分
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http://iiyu.asablo.jp/blog/2011/12/03/6231894
ピアノ発表会。開演時間が13時30分
_ ホットコーナーの舞台裏 - 2012年01月12日 08時48分46秒
ASAHIネット(http://asahi-net.jp )のjouwa/salonからホットコーナー(http://www.asahi-net.or.jp/~ki4s-nkmr/ )に転載したものから。
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盲目の天才ピアニスト、辻井伸行さんの「神様のカルテ」。
http://
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盲目の天才ピアニスト、辻井伸行さんの「神様のカルテ」。
http://
_ ホットコーナーの舞台裏 - 2013年05月28日 09時02分34秒
ASAHIネット(http://asahi-net.jp )のjouwa/salonからホットコーナー(http://www.asahi-net.or.jp/~ki4s-nkmr/ )に転載したものから。
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筒井康隆におれが霊界通信で作品を書かせているのは、周知の事実
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筒井康隆におれが霊界通信で作品を書かせているのは、周知の事実
_ ホットコーナーの舞台裏 - 2014年01月14日 10時12分04秒
ASAHIネット(http://asahi-net.jp )のjouwa/salonからホットコーナー(http://www.asahi-net.or.jp/~ki4s-nkmr/ )に転載したものから。
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MINちゃん、遅くなりました。すみません。
演奏曲目や演奏内容は
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MINちゃん、遅くなりました。すみません。
演奏曲目や演奏内容は
_ ホットコーナー - 2018年08月09日 10時36分23秒
ASAHIネット(http://asahi-net.jp )のjouwa/salonから。
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お買い上げありがとうございます。
恥ずかしながら、知らないピアニストですが、素人評は、絶賛ですね。
https://www.amazon.co.jp/exe
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お買い上げありがとうございます。
恥ずかしながら、知らないピアニストですが、素人評は、絶賛ですね。
https://www.amazon.co.jp/exe
_ ホットコーナー - 2021年03月22日 09時57分31秒
ASAHIネット(http://asahi-net.jp )のブログサービス、アサブロ(https://asahi-net.jp/asablo/ )を使っています。
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お買い上げありがとうございます。
誰が、バッハを演奏しているのかと思った
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お買い上げありがとうございます。
誰が、バッハを演奏しているのかと思った
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