繁栄の昭和。キリコと筒井康隆 ― 2015年04月15日 09時16分07秒
ASAHIネット(http://asahi-net.jp )のtti/salon(筒井康隆会議室)からホットコーナー(http://www.asahi-net.or.jp/~ki4s-nkmr/ )に転載したものから。
---
書こうと思って、もう4ヵ月も経ってしまった。
キリコのことを調べたり、筒井さんの昔の作品を読み直したりしてたら、あ
っという間。4月の新年度前にはと思ったけど、間に合わなかった。
でも、なんとか、書く。
まず、「繁栄の昭和」から。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163901264/showshotcorne-22/
繁栄の昭和 単行本 2014/9/29
筒井 康隆 (著)
どれも、魅力溢れる短編だが、やはり白眉は「高清子とその時代」。
ベティ・ブープと共に、長らく筒井さんが追いかけている高清子。彼女の生
涯を追いかけた記録で、大変な労作だ。
筒井康隆は、ベティ・ブープと高清子に、奥様である光子様の面影を追いか
けているという説は、実に正しい。
筒井さんは、デビューまもなく長編「霊長類 南へ」を発表したとき、
「ライフワークをもう書いてしまった。あはは。この先どうしよう。あはは」
的なことをインタビューで述べたか、エッセイで書いていた記憶があり、当時、
「この作家、大丈夫か。めちゃくちゃ、面白いわ」
と思ったものだ。
「高清子とその時代」を読んでやっとわかった。
わかってしまえば、なんのことはない。当然のことだが、筒井康隆のライフ
ワークとは、光子様を生涯愛し続けることだったのだ。かっこよすぎるぜ。
さて、この作品集の中でも使われているが、日常の描写の中に、ひょいと超
現実的な描写を放り込む手法が、ぼくは大好きだ。
「一族散らし語り」のラスト、お夏ちゃんが去っていくシーンなど、感動の
あまり、心のみならず体が震えるほどだった。
不思議だよね。絶対に現実にはありえない描写なのに、こんなに感動するな
んて。哀切、愛おしさ、懐かしさ、いろんな感情が湧き起こってくる。
超現実的描写だからこそ、現実を描写したものより、本質的な描写になって
いるからだろう。シュルレアリスム(シュールレアリズム)の凄みを感じてしま
う。
ということで、ジョルジョ・デ・キリコである。
ピカソが畏れ、ダリが憧れたといわれる画家だ。
http://iiyu.asablo.jp/blog/2014/12/24/7523219
ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰- 今週、金曜日まで
で、
--- ここから ---
なぜ、ここで紹介するかというと、「繁栄の昭和」を読んでいたころ、
このキリコ展に行き、筒井さんとキリコに通じるものがあると思ったから
です。そのことは、また、書きます。
--- ここまで ---
と書いたように、ぼくの中で、筒井康隆とジョルジョ・デ・キリコがシンクロ
してしまったのだ。
http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/14/141025/
ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰-
http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2014/1123/index.html
日曜用美術館
謎以外の何を愛せようか
ジョルジョ・デ・キリコ
2014年11月23日放送 再放送:11月30日よる
キリコは、シュルレアリスムの前駆、形而上絵画をひっさげて衝撃のデビュー
をし、シュルレアリスム運動のリーダーであるアンドレ・ブルトンが絶賛し、
ピカソが畏れ、ダリが憧れたという話になっていく。
ぼくの中では、キリコのデビューの鮮烈さが、筒井さんがスラップスティッ
クSF(ドタバタSF)で颯爽とデビューしたときとシンクロした。
筒井さんのデビュー当時、大変な美男子でもあったので、
「星新一が道を拓き、小松左京がブルドーザーで整地した道路を、筒井康隆は、
颯爽とスポーツカーに乗ってやってきた」
などと評された。
http://ja.wikipedia.org/wiki/サイエンス・フィクション
には、
--- ここから ---
小松左京は著書『SF魂』の中で、当時の日本SF界の状況を「漫画星雲の手塚治
虫星系の近くにSF 惑星が発見され、星新一宇宙船船長が偵察、矢野徹教官が
柴野拓美教官とともに入植者を養成、それで光瀬龍パイロットが着陸、福島正
美技師が測量して青写真を作成、いちはやく小松左京ブルドーザーが整地して、
そこに眉村卓貨物列車が資材を運び、石川喬司新聞発刊、半村良酒場開店、
筒井康隆スポーツカーが走り…」と表現している[25]。
--- ここまで ---
とありますね。
パリでは衝撃のデビューを飾り、シュルレアリスムの神の扱いだったキリコ
も、本国イタリアではほとんど無名だったとのこと。
機を見るに敏な人はいるもので、上述NHKの「日曜用美術館」では、イタリ
アの画家カルロ・カッラは、キリコが使うモチーフに、そっくりなモチーフを
使った絵を描き、イタリアで、自分こそ、形而上絵画の本家本元だと売り込ん
だ。
これにキリコはショックを受けて、自分の絵画とはなんだったのかと苦悶の
日々を過ごすのだが、そんな折、ローマのボルゲーゼ美術館で、ティツィアー
ノ・ヴェチェッリオの「キューピッドに目隠しするヴィーナス 1565年」を観
て、衝撃を受ける。
こんな絵です。
http://blogs.yahoo.co.jp/naokiart1969/36134055.html
目隠し
ボルゲーゼ美術館は、こんなところ。「キューピッドに目隠しするヴィーナス」
も出ています。
http://rinda.my.coocan.jp/html/2009/2009-11/Roma1/Roma1.htm
ローマ(自由時間) (Roma Free Time)
キリコは、この絵やルネッサンスの絵を観て、自分は絵画に対して、なんて
表面的で浅い理解しかしてなかったのか。自分は、形而上絵画で表面的なイメ
ージだけ追いかけていたから、簡単に真似されるような絵しか描けなかったん
だ。絵画とは、もっと広く深い総合的なものだ。イメージのみならず、美術用
語だとマチエールというんでしょうが、画材、絵の具、質感、その他もろもろ
全てによって成立するなものなのだ。もっと絵画の全てを勉強しないといけない。
という考えに至り、覚悟を決めて、絵を勉強し直す。
たとえば、絵の具は、出来合いのチューブのものは使わず、自分で顔料から
作るようになる。ルネサンス期の絵の具も再現し、ほぼ失われていた当時の
技法も習得し、復活させた。
そして、キリコは、古典的な絵を描き始める。これが、シュルレアリスムの
連中から大ブーイング。神と崇められたのに、裏切り者とまで酷評されてしまう。
この辺が、「虚人たち」をはじめとする実験的な小説やメタ小説で、小説の
画材や絵の具というべき、文体や言葉そのものや虚構内存在や虚構内時間を問
い直したりした時期、歌舞伎や浄瑠璃などの古典を研究し、文学の可能性を
探って、筒井歌舞伎などを発表した時期と、ぼくの中ではシンクロする。
この時期、筒井さんが、スラップスティックSFを書かなくなったので、筒井
康隆はつまらなくなった、SFを捨てて純文学に走ってだめになったなど、一部
でさんざんな言われようだったのも、シンクロする。
そうそう。「虚人たち」が雑誌「海」に発表されたときは、びっくりした。
こんな作品を書いた奴もすごいが、商業誌に載せた奴もすごい。塙嘉彦さんは、
とんでもない編集長だと思った。
筒井さんが、ラテンアメリカ文学を研究し、マジックリアリズムの技法を習
得したのもあの時期。塙編集長の影響は大きかったはず。
さて、キリコは、晩年、突然、シュルレアリスム的、超現実的、形而上絵画
的な絵を描き始める。それがなんと、自分が20代のときに描いたモチーフや
オブジェを使った、昔とほぼ同じものを描いたのだ。
キリコの真意は、わからないが、音楽では、セルフカバーはよくある。かつ
ての名曲、名演奏を、別のメンバーや新アレンジで録音したりするのと同じ
感覚だったのかもしれない。
それはともかく、これがまた、金を稼ぐために、人気のある昔の作品をコピー
したものを描いたのだなどと、酷評される。しかし、キリコの研究者によれば、
この時期の作品は、実に興味深いという。
想像だが、キリコが若い頃からどれほどの高みに到達したか、新旧の作品を
見比べると、彼らにはわかるのだろう。そして、キリコが辿ってきた道を思い、
感慨深いものがあるのだろう。
前述の展覧会では、新旧2つの作品を並べて展示してあったが、悲しいかな、
ぼくには、よくわからなかった。
キリコがこのように、昔とほぼ同じ絵を描いたことを、アンディ・ウォーホルが、
絶賛したことは記しておくべきだろう。
ちょっとずつ変えたキャンベルのスープ缶を大量にコピーしたイラストで、
一躍、ポップアートの旗手になったアンディ・ウォーホルにしてみれば、
「よくぞ、キリコ大先生、やってくれました。あなたは、時代の最先端を走っている」
という思いだったのかもしれない。
余談ですが、ぼくにとって、アンディ・フォーホルといえば、「ぐんじょい
ろ」のテレビコマーシャル。あったあった。TDBのビデオテープのCMだったんだ。
https://www.youtube.com/watch?v=a_aQiNdm7jw
TDKビデオテープCM アンディ・ウォーホル
去年、アンディ・フォーホル展があったのか。ちくしょう、行けなかった。
http://dessa.jp/blog/?p=282
やっぱり面白い アンディ・ウォーホル
さてさて、話は、冒頭に戻る。
ここまで、勝手にキリコと筒井康隆をシンクロさせてしまったぼくとしては、
筒井さんが、いよいよライフワークを書くのではないか。それは、若い頃に、
ライフワークとして発表した「霊長類 南へ」に違いない。
キリコと同じく、若い頃に書いた作品を、長い作家生活を通じて身につけた
知識、知恵、技術、全てをぶつけて書き直したものになるに違いない。
こう思って過ごしていたが、先日、全巻予約注文していた筒井康隆コレクション
の第2巻が送られてたのをみて、びっくり。
なんと「霊長類 南へ」だ!!
これは、情報省が、ぼくの脳をスキャンして、筒井康隆に新たに書かせた、
新「霊長類 南へ」に違いない。\(^O^)/
ベティ・ブープについては、「ベティ・ブープ伝」として本になっている。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4122019524/showshotcorne-22/
ベティ・ブープ伝―女優としての象徴 象徴としての女優 (中公文庫)
文庫 1992/11
筒井 康隆 (著)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4120016838/showshotcorne-22/
ベティ・ブープ伝―女優としての象徴 象徴としての女優 単行本 1988/5
筒井 康隆 (著)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4882934744/showshotcorne-22/
筒井康隆コレクションII 霊長類 南へ 単行本 〓 2015/2/18
筒井康隆 (著), 日下三蔵 (編集)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4882934736/showshotcorne-22/
筒井康隆コレクションI 48億の妄想 単行本 〓 2014/11/30
筒井康隆 (著), 日下三蔵 (編集)
関連:
http://iiyu.asablo.jp/blog/2014/12/24/7523219
ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰- 今週、金曜日まで
http://iiyu.asablo.jp/blog/2014/12/04/7509601
筒井康隆コレクション発刊記念 『日本SFの幼年期を語ろう』
http://iiyu.asablo.jp/blog/2015/01/30/7559216
文學界、対談 筒井康隆×佐々木敦
ついでといってはなんだが、上記、
http://iiyu.asablo.jp/blog/2015/01/30/7559216
文學界、対談 筒井康隆×佐々木敦
の文學界に掲載された、お笑い芸人ピースの又吉直樹の「火花」が本になって
ベストセラーになってますね。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163902309/showshotcorne-22/
火花 単行本 2015/3/11
又吉 直樹 (著)
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書こうと思って、もう4ヵ月も経ってしまった。
キリコのことを調べたり、筒井さんの昔の作品を読み直したりしてたら、あ
っという間。4月の新年度前にはと思ったけど、間に合わなかった。
でも、なんとか、書く。
まず、「繁栄の昭和」から。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163901264/showshotcorne-22/
繁栄の昭和 単行本 2014/9/29
筒井 康隆 (著)
どれも、魅力溢れる短編だが、やはり白眉は「高清子とその時代」。
ベティ・ブープと共に、長らく筒井さんが追いかけている高清子。彼女の生
涯を追いかけた記録で、大変な労作だ。
筒井康隆は、ベティ・ブープと高清子に、奥様である光子様の面影を追いか
けているという説は、実に正しい。
筒井さんは、デビューまもなく長編「霊長類 南へ」を発表したとき、
「ライフワークをもう書いてしまった。あはは。この先どうしよう。あはは」
的なことをインタビューで述べたか、エッセイで書いていた記憶があり、当時、
「この作家、大丈夫か。めちゃくちゃ、面白いわ」
と思ったものだ。
「高清子とその時代」を読んでやっとわかった。
わかってしまえば、なんのことはない。当然のことだが、筒井康隆のライフ
ワークとは、光子様を生涯愛し続けることだったのだ。かっこよすぎるぜ。
さて、この作品集の中でも使われているが、日常の描写の中に、ひょいと超
現実的な描写を放り込む手法が、ぼくは大好きだ。
「一族散らし語り」のラスト、お夏ちゃんが去っていくシーンなど、感動の
あまり、心のみならず体が震えるほどだった。
不思議だよね。絶対に現実にはありえない描写なのに、こんなに感動するな
んて。哀切、愛おしさ、懐かしさ、いろんな感情が湧き起こってくる。
超現実的描写だからこそ、現実を描写したものより、本質的な描写になって
いるからだろう。シュルレアリスム(シュールレアリズム)の凄みを感じてしま
う。
ということで、ジョルジョ・デ・キリコである。
ピカソが畏れ、ダリが憧れたといわれる画家だ。
http://iiyu.asablo.jp/blog/2014/12/24/7523219
ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰- 今週、金曜日まで
で、
--- ここから ---
なぜ、ここで紹介するかというと、「繁栄の昭和」を読んでいたころ、
このキリコ展に行き、筒井さんとキリコに通じるものがあると思ったから
です。そのことは、また、書きます。
--- ここまで ---
と書いたように、ぼくの中で、筒井康隆とジョルジョ・デ・キリコがシンクロ
してしまったのだ。
http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/14/141025/
ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰-
http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2014/1123/index.html
日曜用美術館
謎以外の何を愛せようか
ジョルジョ・デ・キリコ
2014年11月23日放送 再放送:11月30日よる
キリコは、シュルレアリスムの前駆、形而上絵画をひっさげて衝撃のデビュー
をし、シュルレアリスム運動のリーダーであるアンドレ・ブルトンが絶賛し、
ピカソが畏れ、ダリが憧れたという話になっていく。
ぼくの中では、キリコのデビューの鮮烈さが、筒井さんがスラップスティッ
クSF(ドタバタSF)で颯爽とデビューしたときとシンクロした。
筒井さんのデビュー当時、大変な美男子でもあったので、
「星新一が道を拓き、小松左京がブルドーザーで整地した道路を、筒井康隆は、
颯爽とスポーツカーに乗ってやってきた」
などと評された。
http://ja.wikipedia.org/wiki/サイエンス・フィクション
には、
--- ここから ---
小松左京は著書『SF魂』の中で、当時の日本SF界の状況を「漫画星雲の手塚治
虫星系の近くにSF 惑星が発見され、星新一宇宙船船長が偵察、矢野徹教官が
柴野拓美教官とともに入植者を養成、それで光瀬龍パイロットが着陸、福島正
美技師が測量して青写真を作成、いちはやく小松左京ブルドーザーが整地して、
そこに眉村卓貨物列車が資材を運び、石川喬司新聞発刊、半村良酒場開店、
筒井康隆スポーツカーが走り…」と表現している[25]。
--- ここまで ---
とありますね。
パリでは衝撃のデビューを飾り、シュルレアリスムの神の扱いだったキリコ
も、本国イタリアではほとんど無名だったとのこと。
機を見るに敏な人はいるもので、上述NHKの「日曜用美術館」では、イタリ
アの画家カルロ・カッラは、キリコが使うモチーフに、そっくりなモチーフを
使った絵を描き、イタリアで、自分こそ、形而上絵画の本家本元だと売り込ん
だ。
これにキリコはショックを受けて、自分の絵画とはなんだったのかと苦悶の
日々を過ごすのだが、そんな折、ローマのボルゲーゼ美術館で、ティツィアー
ノ・ヴェチェッリオの「キューピッドに目隠しするヴィーナス 1565年」を観
て、衝撃を受ける。
こんな絵です。
http://blogs.yahoo.co.jp/naokiart1969/36134055.html
目隠し
ボルゲーゼ美術館は、こんなところ。「キューピッドに目隠しするヴィーナス」
も出ています。
http://rinda.my.coocan.jp/html/2009/2009-11/Roma1/Roma1.htm
ローマ(自由時間) (Roma Free Time)
キリコは、この絵やルネッサンスの絵を観て、自分は絵画に対して、なんて
表面的で浅い理解しかしてなかったのか。自分は、形而上絵画で表面的なイメ
ージだけ追いかけていたから、簡単に真似されるような絵しか描けなかったん
だ。絵画とは、もっと広く深い総合的なものだ。イメージのみならず、美術用
語だとマチエールというんでしょうが、画材、絵の具、質感、その他もろもろ
全てによって成立するなものなのだ。もっと絵画の全てを勉強しないといけない。
という考えに至り、覚悟を決めて、絵を勉強し直す。
たとえば、絵の具は、出来合いのチューブのものは使わず、自分で顔料から
作るようになる。ルネサンス期の絵の具も再現し、ほぼ失われていた当時の
技法も習得し、復活させた。
そして、キリコは、古典的な絵を描き始める。これが、シュルレアリスムの
連中から大ブーイング。神と崇められたのに、裏切り者とまで酷評されてしまう。
この辺が、「虚人たち」をはじめとする実験的な小説やメタ小説で、小説の
画材や絵の具というべき、文体や言葉そのものや虚構内存在や虚構内時間を問
い直したりした時期、歌舞伎や浄瑠璃などの古典を研究し、文学の可能性を
探って、筒井歌舞伎などを発表した時期と、ぼくの中ではシンクロする。
この時期、筒井さんが、スラップスティックSFを書かなくなったので、筒井
康隆はつまらなくなった、SFを捨てて純文学に走ってだめになったなど、一部
でさんざんな言われようだったのも、シンクロする。
そうそう。「虚人たち」が雑誌「海」に発表されたときは、びっくりした。
こんな作品を書いた奴もすごいが、商業誌に載せた奴もすごい。塙嘉彦さんは、
とんでもない編集長だと思った。
筒井さんが、ラテンアメリカ文学を研究し、マジックリアリズムの技法を習
得したのもあの時期。塙編集長の影響は大きかったはず。
さて、キリコは、晩年、突然、シュルレアリスム的、超現実的、形而上絵画
的な絵を描き始める。それがなんと、自分が20代のときに描いたモチーフや
オブジェを使った、昔とほぼ同じものを描いたのだ。
キリコの真意は、わからないが、音楽では、セルフカバーはよくある。かつ
ての名曲、名演奏を、別のメンバーや新アレンジで録音したりするのと同じ
感覚だったのかもしれない。
それはともかく、これがまた、金を稼ぐために、人気のある昔の作品をコピー
したものを描いたのだなどと、酷評される。しかし、キリコの研究者によれば、
この時期の作品は、実に興味深いという。
想像だが、キリコが若い頃からどれほどの高みに到達したか、新旧の作品を
見比べると、彼らにはわかるのだろう。そして、キリコが辿ってきた道を思い、
感慨深いものがあるのだろう。
前述の展覧会では、新旧2つの作品を並べて展示してあったが、悲しいかな、
ぼくには、よくわからなかった。
キリコがこのように、昔とほぼ同じ絵を描いたことを、アンディ・ウォーホルが、
絶賛したことは記しておくべきだろう。
ちょっとずつ変えたキャンベルのスープ缶を大量にコピーしたイラストで、
一躍、ポップアートの旗手になったアンディ・ウォーホルにしてみれば、
「よくぞ、キリコ大先生、やってくれました。あなたは、時代の最先端を走っている」
という思いだったのかもしれない。
余談ですが、ぼくにとって、アンディ・フォーホルといえば、「ぐんじょい
ろ」のテレビコマーシャル。あったあった。TDBのビデオテープのCMだったんだ。
https://www.youtube.com/watch?v=a_aQiNdm7jw
TDKビデオテープCM アンディ・ウォーホル
去年、アンディ・フォーホル展があったのか。ちくしょう、行けなかった。
http://dessa.jp/blog/?p=282
やっぱり面白い アンディ・ウォーホル
さてさて、話は、冒頭に戻る。
ここまで、勝手にキリコと筒井康隆をシンクロさせてしまったぼくとしては、
筒井さんが、いよいよライフワークを書くのではないか。それは、若い頃に、
ライフワークとして発表した「霊長類 南へ」に違いない。
キリコと同じく、若い頃に書いた作品を、長い作家生活を通じて身につけた
知識、知恵、技術、全てをぶつけて書き直したものになるに違いない。
こう思って過ごしていたが、先日、全巻予約注文していた筒井康隆コレクション
の第2巻が送られてたのをみて、びっくり。
なんと「霊長類 南へ」だ!!
これは、情報省が、ぼくの脳をスキャンして、筒井康隆に新たに書かせた、
新「霊長類 南へ」に違いない。\(^O^)/
ベティ・ブープについては、「ベティ・ブープ伝」として本になっている。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4122019524/showshotcorne-22/
ベティ・ブープ伝―女優としての象徴 象徴としての女優 (中公文庫)
文庫 1992/11
筒井 康隆 (著)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4120016838/showshotcorne-22/
ベティ・ブープ伝―女優としての象徴 象徴としての女優 単行本 1988/5
筒井 康隆 (著)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4882934744/showshotcorne-22/
筒井康隆コレクションII 霊長類 南へ 単行本 〓 2015/2/18
筒井康隆 (著), 日下三蔵 (編集)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4882934736/showshotcorne-22/
筒井康隆コレクションI 48億の妄想 単行本 〓 2014/11/30
筒井康隆 (著), 日下三蔵 (編集)
関連:
http://iiyu.asablo.jp/blog/2014/12/24/7523219
ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰- 今週、金曜日まで
http://iiyu.asablo.jp/blog/2014/12/04/7509601
筒井康隆コレクション発刊記念 『日本SFの幼年期を語ろう』
http://iiyu.asablo.jp/blog/2015/01/30/7559216
文學界、対談 筒井康隆×佐々木敦
ついでといってはなんだが、上記、
http://iiyu.asablo.jp/blog/2015/01/30/7559216
文學界、対談 筒井康隆×佐々木敦
の文學界に掲載された、お笑い芸人ピースの又吉直樹の「火花」が本になって
ベストセラーになってますね。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163902309/showshotcorne-22/
火花 単行本 2015/3/11
又吉 直樹 (著)
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